Research
中楯研究室では,頭をぶつけた際に脳に生じる現象について研究しています.神経線維に対して実際に衝撃を加える実験を行い,安全な範囲を数値で示す耐性値を開発しています.また,損傷した神経線維に電気的・力学的刺激を与えて脳を活性化する方法についても検討しています.これらの研究により,自動車の安全基準や新たな医療技術に発展することが期待されます.
繰り返し低ひずみ負荷を受ける脳神経細胞の軸索損傷評価
柔道,サッカー,ラグビーなどのコンタクトスポーツにおいて脳震盪を繰り返し受傷すると,脳は刺激に対して脆弱,敏感になり,追加される外傷に対する閾値が低下し,外傷が軽度であっても重傷頭部外傷後に見られるような記憶力や注意力の低下を引き起こします.
交通事故などで頭部を強打すると,頭部の急激な加減速により脳組織に慣性力が働き変形します.脳組織の変形は神経細胞間の情報伝達を担う神経軸索に引張応力を与え,損傷や断裂を引き起こします.脳震盪においても少なからず軸索損傷が起こっていると考えられますが,細胞生物学的な知見は少ないです.繰り返し脳震盪における軸索損傷の重症化メカニズムを明らかにするため,脳神経細胞の衝撃試験を通して,神経軸索の耐性値を開発しています.
マイクロコンタクトプリンティングによる神経軸索の伸長方向制御
脳内の神経細胞,特に軸索部分は,大脳皮質や脳幹など,部位に応じて配向性を持っています.同等の衝撃が脳組織に加わった場合でも,受傷部位の軸索の配向性が違えば,損傷の種類や程度も異なってくると考えられます.
本研究室では,通常の培養ではランダムな方向に伸長する軸索を,微細加工技術を応用して伸長方向を制御し,直線的に配向させることで,1本の軸索に引張ひずみを正確に負荷する手法を確立しています.軸索に所望の衝撃を正確に負荷することで,神経細胞の衝撃ひずみ耐性がより高精度に得られ,損傷閾値として事故再現シミュレーションに実装することで,従来よりも局所的な脳神経損傷の評価・予測に繋がります.
頭部外傷症例の事故再現解析による脳神経損傷の発症予測シミュレーション
防犯カメラやドライブレコーダーの普及により,交通事故時の様々な情報が入手できるようになってきました.交通事故の再現シミュレーションは,診断支援ツールとしての役割が期待されています.
本テーマでは,歩行者対自動車の衝突事故における受傷状況をヒト全身モデルで再現し,衝突時に発生する頭部重心加速度を計算します.次に,計算した頭部重心加速度をヒト頭部有限要素モデルに入力することで,ひずみ,ミーゼス応力,せん断応力といった脳内力学応答を計算し,脳神経損傷の発症部位や重症度を予測します.最後に,臨床所見と比較することで,損傷予測の精度を検証します.
[ このページの先頭へ戻る ]