植物は様々な二次代謝産物を生成しますが、そのほとんどは配糖体およびさらに修飾された形で液胞に蓄積されることが知られています。その配糖化反応を担っているのが配糖化酵素です。アラビドプシスのゲノム解析の結果から、一つの植物には配糖化酵素遺伝子が100程度(以上)は存在していることがわかっていて、それぞれが様々な機能を担っていると考えられますが、すべてが解っているわけではありません。特に、糖をいくつも付ける反応や、特殊な糖転位反応は解析がほとんど解っていません。従来はおまけ程度に考えられていた配糖化酵素が、二次代謝において非常に重要であることが示されてきています。そこで、私たちは、さまざまな植物を用いて、配糖化に関わる酵素およびその遺伝子の解析を進めるとともに、その有効利用を目指した研究を行っています。
ソバの配糖化酵素の解析
ソバは健康物質として注目されているフラボノイド配糖体のルチンを大量に蓄積することが知られています。ルチンはソバの全草に含まれていますが、特に花や葉、子葉に多く含まれています。また、あまり知られていませんが、ソバは、やはり健康物質として注目されているフラボノイドC配糖体を子葉に特異的に蓄積します。
我々は、これらの生合成に関わる配糖化酵素、特にC配糖化酵素やラムノシル化酵素の解析を進めています。
サツマイモの配糖化酵素の解析
カルボキシ配糖体はO配糖体と比べると、高エネルギー結合であることからさまざまな化合物の生合成前駆体として作用すると考えられますが、あまり詳しいことが分かっていません。サツマイモはさまざまな二次代謝産物を作り出しますが、その過程でカルボキシ配糖体も生成することが知られています。我々は、カルボキシ配糖化に関わる酵素遺伝子をサツマイモからいくつか見つけ出し、その反応の解析を行っています。
タバコの配糖化酵素遺伝子の解析(以前の仕事です)
二次代謝産物の配糖化について解析する目的で、タバコの配糖化酵素遺伝子の単離とその解析を進め、これまでに6つの配糖化酵素遺伝子を単離し、それぞれ大腸菌におけるタンパク質発現を通じてその機能の解析を行いました。その結果、以下のことがわかりました。
- NtGT1a, NtGT1b
オーキシン・サリチル酸などで遺伝子発現の誘導を受ける誘導性の配糖化酵素で、これまでに(他の植物でも)報告されていないタイプであった。フラボノイドの3位の水酸基に強い活性を示すが、その他クマリン類やナフトールなどに対しても活性をしめすなど、広い基質特異性を持つ酵素であった。
- NtGT2
アントシアニンの5位に配糖化する酵素に配列の相同性が高い酵素であるが、その活性は確認できていない。フラボノイドやクマリンに対して反応性を示し、また、サリチル酸で遺伝子発現の誘導を受ける。
- NtGT3
NtGT1との同一性がアミノ酸レベルで60%と高い酵素で、反応性はNtGT1と類似しているが、若干異なっていた。タバコ植物体内での役割も類似していると考えられる。
- NtGT4
タバコから報告されているIS5a遺伝子との相同性が比較的高い酵素。クマリン類・フラボノイド類に反応性を示す。特にフラボノイドについては同じ酵素で2つの糖を付ける反応性を示す。タバコ細胞内での発現は非常に弱い。
- NtGT5
類似した酵素の報告例がない新規の酵素。タバコ細胞内で常時発現していると考えられるが、今のところ基質となる物質が見つかっていない。
- タバコのスコポレチン配糖化に関与する酵素の精製(以前の仕事です)
タバコのスコポレチン生合成について解明する目的で、まず、スコポレチンの配糖化に関与する酵素の精製を行いました。その結果、スコポレチン配糖化に関わる酵素には4つ以上のアイソザイムが存在することを明らかにしました。そのうち主要な酵素一つを電気泳動的に単一になるまで精製し、N末端アミノ酸配列を決定しました。この酵素は、スコポレチンの他、エスクレチンなどのクマリン類、ケンフェロールなどのフラボノイドに対しても反応性を示しました。