キノコの分子育種・成長因子の解析、子実体誘導機構の解明

私たちの研究室(下坂、田口研究室)では、担子菌キノコの分子育種技術を確立し、その機能開発を目指してさまざまなプロジェクトに取り組んでいます。実験にはエノキタケ (Flammulina velutipes) を材料に用い、その子実体形成時に発現する遺伝子や、生育・栄養分解などに関わる遺伝子を解析しています。
 子実体誘導処理前の菌糸状細胞と誘導処理12日後の子実体原基形成時の細胞からmRNAを調製して、differential display法により子実体原基形成時に特異的に発現している遺伝子を多数単離しました。現在、順次これらの遺伝子の解析を行っています。

担子菌キノコの生活環

  複核菌糸は子実体誘導の刺激を受けることにより、子実体形成への分化過程に移行します。子実体の担子器では減数分裂が起こって、胞子を形成します。この胞子からは単核菌糸が成長し、和合性のある単核菌糸同士から複核菌糸が生成します。
 特に、商業栽培が行われているキノコでは、条件を変えることによって子実体形成を人為的に制御できます。エノキタケでは、光や温度、湿度の変化、物理的な刺激(菌かきと呼ばれる作業)を同時に与えることによって、効率的に子実体の形成が誘導されます。


エノキタケの子実体形成過程

  エノキタケの人工栽培では、ビン内のおがくず培地で複核菌糸を十分に増殖させたのちに、菌掻き、注水、光照射などの処理を行います(0日目)。これにより、同調的に子実体形成が誘導され、12日目に子実体原基が形成されます。その後、数日で、いわゆる店頭で見かける「エノキタケ」になります。


Diiferential display法による子実体形成期に特異的に発現する遺伝子の単離

  子実体形成誘導前の複核菌糸と誘導12日目の子実体原基の双方からmRNAを単離して、ランダムなプライマーセットによるPCRを用いて、子実体原基で特異的に発現する遺伝子のcDNA断片を取得しました。これまでに、hydrophobin遺伝子、Chitin deacetylase遺伝子などの解析を行い、報告しています(下記、参照)


Diiferential display法による子実体形成期に特異的に発現する遺伝子の単離

 上記で得られた遺伝子の一つに、Fv-ada があります。この遺伝子は、Adenosine deaminnase-related grouth factor (ADGF) と相同性を持つタンパク質をコードしています。ADGFは、昆虫や人などから見つかった細胞の分化や成長を促進する因子で、アデノシンをイノシンに変換する(Adenosine deaminnase)活性を持っていて、この活性が生理作用に重要であると考えられています。  Fv-adaを異種宿主発現させたタンパク質は、アデノシンをイノシンに変換しました。また、RNAi法によってエノキタケのこの遺伝子を発現抑制すると、菌糸の成長が著しく抑制されました。これらのことは、Fv-ada がエノキタケにおいても成長因子として機能することを示唆しています(Sekiya et al.)。真菌類でADGFの機能が確認されたのは、この研究が初めてです。現在、さらに機能解析をしています。



 [関連業績]

19th Apr. 2014 更新