植物の異物解毒に関する研究

 植物は、環境から低分子の異物がやってくると、動物の場合と違って、「排出系」が発達していないため、「細胞内に蓄積する」、もしく細胞壁に蓄積するなどしてその毒性を回避すると考えられています。その際、水酸化、配糖化、アシル化、グルタチオン化など,様々な修飾反応が行われます。私たちの研究室では、植物がフェノール性化合物にさらされたときにどのような反応をするのかについて、解析を行っています。

・タバコにおけるフェノール性化合物の代謝

 タバコ細胞にフェノール性異物であるナフトールを投与すると、配糖化およびマロニル化を受けたマロニルグルコシドとして細胞内に蓄積されることを明らかにしました。これらの反応に関わる酵素遺伝子(NtMaT1)を単離して、酵素機能を明らかにしたところ、いずれも、非常に幅広い基質に反応しうる酵素でした。

サンプル  さらに、RNAi法で遺伝子の発現を抑制した植物を作成して、その影響を調べました。特にマロニル化遺伝子NtMaT1の発現を抑えた植物では、マロニル化反応が全く起こらなかったことから、異物代謝に関わる酵素であることが示されました。

 このナフトールなどのフェノール性異物をマロニルグルコシドとして蓄積する代謝は、多くの植物種に見られる、普遍的な現象でした(図)。


外来異物は、植物の細胞内に入ると、配糖化やマロニル化などの修飾反応を受けて、液胞の中に蓄積される。そのほか、メチル化して細胞外に放出する系や、配糖化を受けた後にさらに配糖化を受けて細胞内に蓄積する系を持つ植物も存在する。 高濃度の場合、細胞内に入る前にペルオキシダーゼにより分解されることも多い。



・シロイヌナズナにおけるフェノール性化合物の配糖化とマロニル化

 シロイヌナズナでも、ナフトールなどのフェノール性異物はマロニルグルコシドとして蓄積されます。この代謝に関わる酵素(AtPMaT1)はNtMaT1と同様の反応性を示しました。AtPMaT1破壊株において、配糖化を受けたナフトールは,さらなるマロニル化を受けることができず、細胞外へ放出されたことから、細胞内でのフェノール性異物配糖体の蓄積においてマロニル化が重要であることが明らかとなりました。


シロイヌナズナでは、投与したフェノール性異物を配糖化・マロニル化して蓄積するほか、一部の配糖体が培地中へ放出される。さらに、マロニル化酵素活性を抑制すると配糖体の放出が増加する。

・異物代謝系を利用した物質変換系の構築

 上記の「配糖体の放出現象を利用した安価な配糖体生産系」の確立を目指しています。


異物代謝機構を応用した物質変換のイメージ

 現在、この異物代謝機構に関わる配糖化酵素を同定するとともに、その変異体の解析を行っています。また、配糖体の輸送に関わる輸送体の候補遺伝子を確認し、その検証を行っています。これらにより、植物のどのように異物の侵入に対応しているのかが明らかになるとともに、その機構を応用した有用物質生産、耐性機構を応用した耐性植物の育種などが期待されます。


 [関連業績]

19th Apr. 2014 更新